社長インタビュー    出典は月刊ブランスリー 業界アンテナ(2008年1月号)
本質的に石窯であるということ

「平窯王」の前で、山根証ツジ・キカイ社長
飽食の時代の今、消費者は本物の味を強く求めるようになった。いい素材を用いて、熟練した職人の技でていねいに作られたものが、再評価されている。そんな時代に作られた純国産の石窯がある。開発会社のツジ・キカイ、山根証社長に、「なぜ石窯なのか」について話を聞いた。


小型の石窯「クラシカ」も、特殊調合されたセラミックの構造体で、石窯の本質的な効果を存分に発揮する


「平窯王」の操作パネル。上火、下火、焼成時間の設定の他、上火、下火の火力の調節が手動でできるようになっている
石窯のパンの品質を肌で感じてほしい

――石窯を自社で独自開発し、販売を開始されてから、4年が経ちますが、反響の方はいかがですか?
山根 当社の石窯で焼いたパンの美味しさを実感してもらうべく、講習会や、テストキッチンでの焼成テスト、勉強会などを、積極的に行ってきましたが、お蔭様で、その違いを認めていただき、実際に導入していただけるケースが増えています。
――パン業界では、石窯ベーカリーというスタイルがだいぶ定着してきました。
山根 「本物」「本当のおいしさ」「伝統的な味」。石窯は、そうしたことと結び付けられています。日本人は、より美味しいもの、より安全なものを求める中で、石窯の持つ伝統的なイメージや、本物のイメージに惹かれるのだと思います。私は、ひとつのキーワードは「素材のよさ」ということだと思っています。
 例えば、珪藻土や漆喰の塗り壁、ご飯を炊く土鍋など、昔の素材のよさを生かしたものが、再評価されているのも、この表れじゃないかと思うんです。
――素材といえば、ツジ・キカイさんの石窯の素材は、2000年近く前のポンペイ遺跡の石窯から多くのヒントをもらって開発したと聞きました。
山根 熱せられた石が発する輻射熱でパンを焼くという昔ながらの方法を、出来る限り本来の姿で再現しようと考えました。当社の石窯は、パンの投入口の面以外は、すべて厚い石(特殊調合されたセラミック)で囲まれています。しかも耐久性のある、金型による一体成型品です。石窯で焼くということの本質的な効果が得られる窯だと自負しています。
――石窯の本質的な効果とはどのようなものですか。
山根 石から出る遠赤外線の輻射熱は、パンの外側から中心部へ向かって熱を伝えていくのではなく、中に直接浸透して、パン生地に働きかけ、パン生地自体を発熱させます。当社の石窯は、分厚い石の構造物なので、蓄熱の量が圧倒的に多く、豊富で安定した輻射熱を常にパンに与えることができます。つまり、「石窯的効果も得られる窯」ではなく、本質的に「石窯」なのです。
 当社の石窯でパンを焼く際に、パンの中心部と表面にセンサーをさして、それぞれの温度変化を調べた結果があります。中心部の温度は、パン生地投入後、すぐに緩やかに上昇し始め、焼き上がりまでほぼ一定の速度で緩やかに上昇して、中心部が98度Cに達した時に、全体がほぼ同時に焼き上がります。このことによって、生地中の水分を余分に奪うことなく、内相がよりしっとりとしたパンに焼き上がります。この結果、老化も遅くなります。一方、通常のデッキオーブンの場合、中心温度は、投入からしばらくの間は上昇せず、一定の時間が経ってから急激に上昇し始めます。そして、パンが完全に焼き上がる前に中心部が98度Cまで到達してしまいます。中心部分が焼き過ぎになる傾向なのです。
 パンの表面温度は、当社の石窯の場合は、蓄熱量が圧倒的に多いため、生地投入による炉内の温度降下がほとんどなく、投入直後から、設定した温度でほぼ一定に保たれます。これにより、生地への火通りが安定し、無理なくふっくらと焼き上がるのです。
――蓄熱量が多く、しかも豊富な輻射熱で満たされ、温度が安定しているという理想的な状態に炉内が保たれているということですね。ただ、多くの種類のパンを焼くベーカリーでは、焼成温度の違う製品を続けて焼く場合などの温度調整の問題があるのでは。
山根 その心配はありません。当社の石窯のひとつである「平窯王」は、上火用のヒーターが、天井の石の上側ではなく、内側についているので、そのヒーターへの通電量を火力調整ボタンで調整することによって、同じ上火温度、下火温度の設定のままで、焼色の違う多種多様な製品を自在に焼き分けることができるのです。つまり、本来石窯が持っている安定した熱でしっかりと焼きながら、温度の上昇下降が早い、通常のデッキオーブンの便利さも兼ね備えているということなんです。細かな焼き具合の調整が自在にできる石窯ということになります。
――ツジ・キカイさんの石窯のメリットは他にはありますか。
山根 もうひとつの大きな利点は、調湿効果です。多孔質の厚いセラミックの構造物であるため、炉内が湿っているときは、水分を吸収し、逆に乾燥しているときは、加湿をしてくれます。この素材の効果により、炉内は常に理想的な湿度に保たれるのです。
――なるほど。ところで、山根社長はよく講習会などで、「本物のパン食文化を日本に根付かせたい」と言っておられますが、その具体的な方法論について聞かせてください。
山根 私は、イタリアで生活していたときに、イタリア人の食生活の中にパンが当たり前のようにあって、そのすばらしさ、飽きない良さを肌で感じました。私は、それを多くの人に知ってもらえたら、といつも考えています。それには、まず、ベーカリーやレストランのシェフの方々が、ヨーロッパの食文化に精通して、それを多くのお客様に伝えていく、という地道な活動が必要だと思っています。
 日本ではこれまで、パンは、料理と共に食べる主食としてではなく、菓子パンや調理パンのように、単体で食べるものとして定着してきました。もちろん、こうしたパンも石窯で焼くとおいしく焼き上がりますが、やはり石窯の醍醐味は、ハード系のパンの焼成です。もちろん、菓子パンや調理パンを否定するつもりはまったくありません。しかし、私はヨーロッパのパン食文化が、より多くの日本人に、選択肢のひとつとして、正しい形で定着するように、これからも努力を続けていきたいと考えています。ステーキとパン、オイスターとパン、生ハムとパンが当たり前になれば、日本のパンの消費量もさらに伸びると思いますから。
 ――最近は、平窯王を使って洋菓子を焼くことも提案されていますね。
山根 洋菓子の萩原俊夫先生が、平窯王の炉内に手を入れて、「この熱なら、いいお菓子が焼ける」と言ったんです。後に実際に焼いていただき、ほとんど全てのお菓子の焼き上がりが素晴らしいのに驚く毎日です。焼き上がったジェノワーズやパウンドケーキなどの内相を見ると、中心部も外側も均一になっています。また、焼き上がって冷めたときの沈み現象もほとんどありませんでした。
 ――今後の抱負を聞かせてください。
山根 とにかく、当社の石窯で焼いた製品の品質の違いを1人でも多くの方に実感していただきたいと思っています。それには、ご自分の製品を実際に当社の石窯で焼いていただくのが一番だと考え、当社のテストキッチンにブーランジェやパティシエの方々をお招きして、思う存分テストしていただいています。

 ツジ・キカイ 1948年、製菓機械メーカーとして創業。自動ドーナツ製造機、オートフライヤー、フードサービス機器などを順次開発し、市場に投入。1983年からは、ヨーロッパの食品機械などの輸入販売も手掛けるようになる。さらに、パンの「即焼き製法」など、様々な新技術を開発し、話題を呼んだ。2003年に、山根氏が社長に就任。山根社長の指揮のもと、製パン用小型石窯「クラシカ」や、デッキオーブン式石窯「平窯王」などを開発し、注目を集めている。問い合わせの電話番号は、049‐225‐5005。


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